ようこそ人類、ここは地図。

私たちにおける、素晴らしい座標を

すてきな読書

お弁当箱に核燃料が。村上春樹も三島由紀夫も。

恋人に勧められて日本の文学小説を読み始めたのは、15歳の夏休みであった。 初心者の私でも読めるだろう、と最初にレコメンドされた作品は、 三島由紀夫『仮面の告白』。 そして、村上春樹『ノルウェイの森』。 2作ともある意味リーダブルな作品ではあった…

最果タヒさんのこと。『君の言い訳は最高の芸術』

この人も私と同じように、靴下をはいたり、歯を磨いたり、だれかと待ち合わせをしたりしながら生きているのだろうか。 食パンを焼きすぎたり、傘を忘れたり、ああなんか今日の髪型はイマイチ、とかそんなことを考えたりするんだろうか。 するんだろうな。 お…

「巨大な雨の読書会」、その1

名付けることは、存在の片棒を担ぐことでもある。 名を与えられた物は、者は、ものは、ものたちは。 おそらく自らの呼び名の来歴を知りたがるであろうし、仮に問うて名付けの由来について何がしかの回答を得たとすれば、繰り返しその中身を参照しつつ、生き…

ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』 彼女はシャッターを切る。

ジュンパ・ラヒリさんというインド系アメリカ人作家の短編集『停電の夜に』を、この2カ月くらいをかけて、とぎれとぎれに読んでいる。 内容は決してつまらなくはないのだけれど、一気に飲み干すような読み方ができない類の作品で、ひとつの話を読んでは何日…

村上春樹×市川準『トニー滝谷』例えば漫画のコマ割りをどうやって映像化するのか。

けっこう映画化されている村上春樹 村上春樹の小説は、短編・長編ともに何作か映像化されている。 私も全部を観たことはない。 映画館で観れたのは、『ノルウェイの森』と『トニー滝谷』だけだ。 それでもネットで調べてみると、1981年にはデビュー作『風の…

池澤夏樹『スティル・ライフ』世界の分解に耳を澄ます

1冊の本が世界のすべてを変えてしまう。 正確には、それまで用いていたのは全く別の視点を提供されることによって、そこから世界の見え方がガラリと根本的に変わってしまう。 そういう出来事は割とよくある。 池澤夏樹の『スティル・ライフ』は、まさにそん…

川上弘美『真鶴』 入り口が消える恐ろしさ。

先日の読書会にて、川上弘美さんの小説『真鶴』を取り上げた。 メジャーな芥川賞受賞作『蛇を踏む』だとか、映画化された『センセイの鞄』『ニシノユキヒコの冒険』ではなく、あえて渋く、『真鶴』。 気づいたら知らない場所に立たされている。 そこがいった…

内田樹『困難な結婚』 自分と離婚する方法。

タイトル買い!内田樹『困難な結婚』 バツイチ、シングルファーザーにして、信頼のおける現代の語り部。 内田樹さん。(現在は再婚されているのでシングルじゃないけど) 政治から宗教からカルチャーまでを幅広く網羅する内田さんが「結婚」について語る。し…

朝吹真理子『きことわ』 文学小説って情報じゃないよ。

最近になって、2011年に芥川賞をとった朝吹真理子さんの「きことわ」という小説を読んだ。 いつまでも読み続けていられるような、にごりのない、透徹した文章世界に引き込まれ、切り取られた見知らぬ人の人生を、ほんの束の間生きて味わっているかのような心…

江國香織『落下する夕方』 落下したもの、喪失の色彩。

誰も帰ってこない12月の夜の部屋で、これを書いている。地球上は黒く冷えて、誰かの呼気で濡れた窓ガラスの内側には赤いカーテンがかかっている。巨大なストローを突き刺した形の加湿器がその細長い先端から滝のようにミストを床に吐き出し続け、中の水がな…

夏目漱石『こころ』 再読の効能、じわじわっと。

夏目漱石の『こころ』を再読している。 初めて読んだ高校生のとき以来、『こころ』は何度か読み直している作品。 二十代のはじめ。三十代の半ば。 もはや覚えていないタイミングでの、数行の拾い読みも合わせると、好きな映画を折に触れて見直すような感覚で…