ようこそ人類、ここは地図。

私たちにおける、素晴らしい座標を

作品名:「ときどき、透明になる家」

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昨日10月8日にアート・イベント「ときどき、透明になる家を作ろう!」を開催し、ぶじに「ときどき、透明になる家」が完成しました。

完成した作品は展示作品として、下記の場所にてご覧いただくことができます。

 

「ときどき、透明になる家」展示地

茨城県つくばみらい市南2135 フロンティアファーム敷地内

 

ときどき透明になる様子をご覧になりたい方は、どうぞお気軽にお立ち寄り下さい。

 

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「ときどき、透明になる家」制作時の様子。

シェア・アトリエ「miraiva」

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夏が終わる頃、踊りながら描きたいと思った。

 

ダンスと絵を描くことはあまりにも似ているから、わたしはそれを一緒くたにしないと気が済まなくなって、旅先の人や一度きり会った人や私を生み育てた人にまで、大きな大きなキャンバスをください踊りますから、と連呼していたら、魔法のように願いは叶い、わたしはいまアトリエと住む場所とを与えられて、太陽がのぼって沈むまでずっと油と顔料と音楽とを混ぜて、服を捨て、はだしで踊りながら暮らしている。

 

滞在先は、「miraiva」というシェア・アトリエだ。

「表現」といういかようにも伸びて幾分融通の効きすぎる枠で括れるものを広く受け入れる、行き場ないアーティストのための場所。

 

ときどき、私の見知らぬ世界の音楽をたずさえた人が、無垢な眼差しで人を石に変える人が、リアス式海岸のようにいくつもの波を抱え込んだ人が、夜更けにやってきて、私の中を流れる透明な河に、色を、ひかりを、無尽蔵に注ぎ入れる。

 

泡立つ河の流れは、こみあげるように氾濫し氾濫し、あふれだすもので今日も私は色を塗っている。

あなたにも来てほしい。わたしという河にあなたの持つ色を、光を。

世界が滅びてもいいなんて嘘つき。

f:id:niga2i2ka:20170930184004j:plain 世界なんて滅びてもよいの。 あなたとわたし、ふたりきり残して。 さっさと滅びてしまえ。 余白だらけになってしまえ。 完璧も片手落ちも曖昧も不透明も、 意味たちはすべて光になってしまうのが正しい。 風のように賢いあの人は。 風のように去ってしまうあの人は。 こんな祈りをきらうかしら。 こんなわたしを。 世界が滅びてもよいなんて、 そんな言葉は嘘です。 あなただけが欲しいように、 願うわたしは嘘です。 わたしたちは結ばれたのに、 その結ばれ方が気に入らない。 わたしたちはほぐされたのに、 そのほぐし方が気に入らない。 ただそれだけのこと。 前髪の波立ち方に苛つくみたいに。 わたしはいま少し、 ご機嫌じゃいられないだけ。

10月8日、イベント詳細です。

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先日お知らせしました「ときどき、透明になる家を作ろう!」のイベント申込ページができました。

イベントの詳細情報も載せておりますので、お時間ございましたらご覧下さいね。

 

2月5日による、参加型アート・イベント

「ときどき、透明になる家を作ろう!」

http://peatix.com/event/306169

 

今回、久々にインスタレーション作品を作れる機会に恵まれた事に対する嬉しい気持ちと「どんな風に着地するのかな」という予想のつかなさ、でこの数日は胸がヒタヒタしております。

 

インスタレーションの醍醐味は、作品に触れた人が自分の頭の中の余白を発見する、そのきっかけ自体に参加者自身がなる、あるいは自ら組み立てる、という点だと思っているので、このイベントも告知文を読むところから作品がスタートするようにデザインしていこうと思っています。

(参加型ながら、完成した「ときどき、透明になる家」も恒常的な作品として機能させたいと思っています)

泡立つコミュニケーション、限界が好き。

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限りあるもの。

それは、面白く、切なくて、愛おしい。

 

終わりや範囲が決まっていることで、その内側の内容物はそこからはみ出さんと煮え立ち、ひとりでに踊り、極まっていく。

「ここまで」と定める限界線の周りには、湖の岸辺にたえず水が打ち寄せるがごとく、言葉が泡立ち、想いが砕けて、いつもいつもとても賑やかだ。

 

限界の線引きがなされているもの。

たとえば命。

たとえば、心。

それから、この肉体も。

 

命の範囲をここまで、と定める境界線を私たちは「死」と呼ぶ。

そして、その境界線である「死」の周辺には、それを語る多くの言葉が生まれる。

やがて尽きる命のはしっこを想いながら、命の内側について私たちは心を動かし、とめどなくお喋りを続ける。

まだ見ぬ世界の終わりを想いながら、そこまでの距離を楽しいお喋りで埋め立てようと夜を更かして、長電話を繰り返す。

 

人の心の限界は、他人と出会った時に生じる。

間仕切りのない弁当箱のように、心の中の内容物が他人の心へと自動的に流れ込んだなら、もはや言葉も眼差しもあらゆるコミュニケーションはお払い箱になるだろう。

 

けれど、私たちの心は、それぞれが別々のお弁当箱。

蓋つきの、中の見えない、お弁当箱。

中身を教え合いたいのに上手くいかず、四苦八苦している。

小さなお弁当箱を抱えながら、その限界がもどかしくて、今日もコミュニケーションは泡立っている。

 

肉体はわかりやすい限界だ。

皮膚、という境界線が私たちの範囲をそれと分かるように視覚化している。どこからどこまでが私なのか。それを計りやすい。

私たちの肉体は、ほかの肉体に成りかわる事はできない。 肉体は、乗り物であり、牢獄であり、呪いのようにどうしようもなく私たち自身だ。

そのせいなのだろうか。肉体は、ときどき、別の肉体と溶け合う瞬間を求める。

間仕切りをなくして、誰かの肉体とつながり、つかの間自分の輪郭線が見えなくなってしまうような、そういう瞬間を。

けれど、溶け合う時間を過ごすほどに、他人と自分とを分かつ境界線はありありとそそり立つ。

どんなにか泡立っても、水泡は破れて、もとの沈黙へと沈んでいく。

溶けたバターのように、誰かと合わさってしまいたい。

そんな事を考えて、けれど夏も終わるから、私はひとり言葉をかき混ぜ、また泡立たせている。

 

ときどき透明になる家を一緒に作りませんか?

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アートイベント

『ときどき、透明になる家を作ろう!』のお知らせです。

 

先日、アムステルダムに住む友人の建築家から面白いペンキをもらいました。

 

彼いわく、

「これを塗ると、ときどき建物が透明になるんだ。僕は試したことないけどさ。オランダのアーティストや建築家の間ではすっごい人気でね。よかったら君も試して感想を聞かせてくれよ」

 

おお、それは是非!と受け取ったものの適当な建物が見つからず、わたしが途方に暮れていると、古民家ゲストハウスのオーナーから、

「うちの建物で良かったら塗りますか?透明になっても、透明にならなくても構いませんよ」

という素敵な申し出をいただきました。

 

そんなわけで、茨城県の古民家ゲストハウス「フロンティア・ファーム」さんにて、『ときどき、透明になるペンキ』を塗って、『ときどき、透明になる家』を作ってみようと思います。

 

「透明になる家を作ってみたい!」

「透明になるペンキって何それ?」

「日曜だからちょっと時間あるよ」

「ペンキ塗った事ないから塗りたいなぁ」

という方を募集しています。

ご興味ある方は2月5日宛てにご連絡下さいませ!

 

アートイベント「ときどき、透明になる家を作ろう!」

日時:10月8日(日)昼間〜夕方(途中参加・退出OKです)

場所:茨城県つくばみらい市南2135

参加費用:2000円(みんなで作ってワイワイ食べるお昼御飯つき!)

持ち物:汚れてもよい服装、運動靴、タオルなど。

問合せ先:niga2.5ka@gmail.com

 

※こちらのアートイベントは「生きるだけをやる〜デジタルデトックスで作る田舎生活」というイベントの1パートとして開催します。

「デジタル・デトックス」とは、日常生活で当たり前になっているスマホ、インターネットなどの刺激物を肉体から切り離し、自分自身の五感に耳を澄ませることで、心身に溜まった「デジタル・ストレス」をデトックスしよう!という体験型のイベントです。

 

アートイベント『ときどき、透明になる家を作ろう!』のパートのみのご参加も大歓迎です!

 

※参加費用は「生きるだけをやる〜デジタル・デトックスで作る田舎生活」にご参加の場合3500円、アートイベント「ときどき、透明になる家を作ろう!」のみご参加の場合は2000円です。

 

生きるだけをやる〜デジタルデトックスで作る田舎生活〜

https://m.facebook.com/profile.php?ref=bookmarks#!/events/289695598103442/?acontext=%7B%22ref%22%3A%222%22%2C%22ref_dashboard_filter%22%3A%22upcoming%22%2C%22action_history%22%3A%22null%22%7D&ref=bookmarks

戯曲『電車という病』

 

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タダシ

「ぼくの姉は電車病です。

とりつくしまもないくらい。

電車病というのは、あ、姉貴どこいくんだよ。

 

「きまっているじゃない、タダシ。

線路を走りに行くのよ。

 

タダシ

「こんな夜中にあぶないだろう。

 

「ばかね、試運転できるのはこの時間しかないでしょう。

子供はさっさと寝なさいよ。

それとも一緒にメトロを走る?

 

タダシ

「姉貴、本当に危ないからよしてくれ。

回送列車に轢かれるぞ。

 

「回送列車なんて、跳ね飛ばしてやるわ。

いってきまーす。

 

■ 姉、照明の外へ。後ろ向きで立つ。

 

タダシ

「ごらんのとおり、何を言っても聞く耳を持ちません。

もとから姉には耳がついていないんです。

一度聞いてみたことがありました。

姉貴、どうしてそんなに線路を走りたがるんだよ。

 

「(振り向いて)何言ってるの、タダシ。

電車が線路を走るのは当たり前でしょう。

あんたこそおかしいわよ。

電車らしくないわよ。

銀色に光ってもいないし。

畳みの上でテレビなんか見たりして。

あんた本当にあたしの弟なのかしらね。

ちっとも電車に見えないんだから。

そりゃ、あたしの気持ちなんか

これっぽっちもわからないはずだわ。

弟の理解も得られないあたしって、

電車としては、わりと不幸ね。

あーあ、OLなんか辞めて、

山手線にでも転職しようかしら。

 

■ 姉、ねっころがり、観客に背を向ける

 

タダシ

「わりと不幸だと言うわりに、

姉はいつも、 僕がいる茶の間に来ては、

そばでゴロゴロしています。

OLだって、当分辞める気はなさそうです。

まんざら会社も悪くないのだと思います。

いや、それどころか・・

 

■ 姉、振り返って

 

「ねえ、タダシ。自慢じゃないけど、あたし、

会社のことが大好きなのよ。

会社のことを考えてると、

あそこがどんどん濡れてきちゃうの。

 

タダシ

「よしてくれよ。姉貴。

俺の前で、会社の話はよしてくれ!

毎日毎日、家に帰ればその話ばかり。

聞かされるこっちの身にもなってくれ。

姉貴だって、知ってるだろう?

明日は大事な試験なんだ。

俺の未来がかかってるんだ。

 

「あんたの未来なんか知らないわ。

でも、試験のことは知っている。

 

タダシ

「だったら頼むよ。

今夜だけ。

会社の話はよしてくれ。

 

「・・・なによ、タダシ。まさかあんた、会社の話が嫌いなの?

 

タダシ

「好きとか嫌いの問題じゃないんだ。

今は試験のことだけ考えたいんだ。

 

「試験のことだけ?

タダシ。

あんた、そんなにアレが好きなの?

 

タダシ

「だから別に、好きとか嫌いの問題じゃないんだ。

 

「じゃあ、あんたは、

アレが好きでたまらないってわけじゃないのね?

朝から晩まで、猿みたいに、

アレばっかりしていたいって訳じゃないのね?

 

タダシ

「ああ。別に、みんなやるから一緒にやるだけだよ。

あんなの、終わっちゃえばなんでもないさ。

 

「・・・なんでもない?

なんでもないのに、今夜はアレのことだけ考えたいって、

いったいどういうこと?

ひょっとして、あんた。

『自分に嘘をついてる』の?

好きでもないアレのことを、

それだけを考えようって、

自分の心を偽ってるのね?

いやだ・・・そんなのって自然じゃないわ。

・・・自然じゃない。

ねえ、タダシ。

あんたは自分を偽ってまで、いったい何がしたいのよ?

 

タダシ

「だからさっきも言っただろ。明日の試験には、俺の未来がかかってるんだ。

だから試験に受かりたいんだよ。

 

「未来のために嘘をつくのね。

内なる自然をねじまげるのね。

言っておくけど、ねえタダシ。

そんな風にしてできる未来は、100%不自然よ。

だとしたら、タダシ。

あんたの未来は、200%不自然よ!

 

■ 姉にあたっていた照明が消える

 

タダシ

「あんたの未来は、200%不自然よ。

その言葉を残して、姉は飛び出して行きました。

深夜の踏み切り。

満月の光はジャムのように照りつけて、

東西へ長く伸びる、中央線の線路に飛び散っているのです。

僕はどんよりと暗い街へ出て、線路沿いに姉を探します。

姉貴!姉貴!

かすかな気配に振り返ると、

真冬の暗闇。

冷えた枕木。

沈黙する鉄のレールの上。

走り去る姉らしき後ろ姿。

つっかけが金属とぶつかる音。

がつがつがつがつがつがつがつがつ!!

間違いなく姉貴だ!

寒さにガチガチと鳴る前歯の隙間から、

安堵の吐息が漏れました。

待ってくれ。姉貴。

俺が、俺が悪かったよ。

俺は、俺は、

ほんとはアレが好きだ。

俺はアレが大好きなんだ。

大好きなんだよ、チクショウ。

だからもう、

内なる自然はねじまがっちゃいない。

内なる自然は、

この中央線よりも、

ピンとまっすぐに伸びている!

だから、

だから、姉貴。

お願いだから、電車のフリはやめてくれ。

頼むよ、姉貴!!

こっちに戻ってきてくれよ!!!!

 

■ 姉に照明。ゆっくりと振り向く。

 

「まっすぐだとか、アレだとか。

ジャムのように線路に飛び散る満月だとか。

そんなことはどうだっていいのよ、タダシ。

あたしがさっきから言っているのはね、

インターネットのことなのよ。

 

タダシ

「い、インターネット?

 

「そうよ。タダシ。

現実を見るの。

あんたはインターネットの使い方を間違えている。

間違え続けてその歳まで育ってしまったのが

たぶん不幸の始まり。

 

タダシ

「なんだよ、それ。

初めて知ったよ。なんだよ不幸の始まりって。

俺のインターネット使いの、

一体どこが間違っているって言うんだよ?

 

「やっぱり気づいていなかったのね。

だったら今こそ教えてあげる!

あんたのインターネットはね、

あんたのインターネットはね!

 

タダシ

「俺のインターネットが、どうしたっていうんだよ?

 

「あんたのインターネットは、

いつも上下がさかさまなのよ!!

あんたが生まれて17年間、あんたのインターネットはずっとずっとさかさまだったの!!

 

タダシ

「・・・ショックでした。

まさか、

僕のインターネットが

今までずっと、さかさまだったなんて。

それに気付かずこの歳まで、

のん気に生きてきたなんて。

 

「驚くのも無理ないわ。

 

タダシ

「・・・ダウンロードは?

姉貴、

ダウンロードはどうなってるんだ?

 

「そんな顔をしないで、タダシ。

こんなむごい仕打ち、あたしだってしたくなかった。

 

タダシ

「いいから全部教えてくれよ!

ダウンロードは、

一体どうなってるんだよ?

 

「意味ないわ。

 

タダシ

「え?

 

「意味がないの。

 

タダシ

「何が?

 

「だから、さかさまのインターネットでダウンロードしたものなんて、

ぜんぶがぜんぶ役立たずなの!

 

タダシ

「な、そんな。・・・ぜんぶが全部って・・・

 

「たとえば、ほら。

あれが何に見える?

 

■ 姉は床を指差す。

 

タダシ

「・・・あれは、線路だろ。

 

「線路に見えるのね。

 

タダシ

「だって、線路だろ?

 

「あれは床よ。

 

タダシ

「線路だろ?!

 

「無理もないわね。

 

タダシ

「何言い出すんだよ。姉貴。

 

「じゃあ、あれは?

 

■ 姉は椅子を指差す。

 

タダシ

「猫だろ。

 

「・・・(深いためいき)

 

タダシ

「猫だろ?違うのかよ?

猫じゃなかったら、いったい何だって言うんだよ?

 

「落ち着いて、タダシ。

あれは、椅子よ。

 

タダシ

「どうかしてるだろ、姉貴。

さっきから何言ってるんだよ?

 

■ 姉、椅子に近づいていって、椅子を蹴っ飛ばす。

 

タダシ

「あ!

 

「どう?これでも猫だって言うの?

 

タダシ

「ニャーって鳴かない・・・

 

「椅子だからよ。

椅子だから、ニャーって鳴かないの。

 

タダシ

「そんな・・・・そんなバカな・・・

 

■ へたりこむタダシ

■ 姉、タダシをじっと見据えたまま、自分の頭を両手で抱える。

 

「じゃあ、タダシ。

最期に聞くわ。

あんたには、これは一体何に見える?

 

タダシ

「・・・・(ごくり唾を飲み込む)

姉貴の・・・あたまだろ・・?

 

「(哀れみに顔をゆがめて)かわいそうなタダシ。

あんたには、現実が何ひとつ見えないのね。

 

タダシ

「・・・・・

 

「先頭車両よ。

これは、中央線の、先頭車両。

 

タダシ

「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!!!

 

「現実を見なさい、タダシ!

あんたもあたしも、まぎれもない電車の姉弟なの!

それを知らないのは、あんただけ!

認めないのもあんただけ!

 

タダシ

「俺も姉貴も電車なら!親父とお袋は何なんだよ?!

 

「(信じられないという顔で)それを・・・聞くの?

そんなことをあたしの口から言わせたいの?

 

タダシ

「じゃあ他に誰に聞くんだよ?!

姉貴のほかに誰に聞いたらいいんだよ?!!

 

「そんな風に責めないでよ。

お父さんもお母さんも、好きで早死にしたんじゃないのよ。

 

タダシ

「・・・悪かったよ。

 

「うどんよ。

 

タダシ

「・・・・

 

「お父さんはうどんよ。

 

タダシ

「うどん屋・・

 

「違う!うどんよ。炭水化物の。

 

タダシ

「な、ば、・・・うど・・

 

「お母さんは、臼。

 

タダシ

「うす?

 

「正月に出してきて餅をつくでしょう。あの時の臼・・

 

タダシ

「んなこと知ってるよ!

なんだよ臼って!

なんでお袋が臼で、親父がうどんなんだよ!

 

「出席番号が近かったの。それですぐに恋に落ちたの。

 

タダシ

「ありえないだろ、どう考えても!

「だって仕方がないでしょう!

どんな組み合わせの二人だって、

男と女は恋に落ちるし、セックスすれば子供ができるのよ。

 

タダシ

「そういう問題じゃないんだよ!

そういう問題以前の問題なんだよ“

臼とうどんがセックスして、電車の姉弟が産まれるなんて、

そんなバカな話あるわけないだろ!

俺たちの親父とお袋が、臼とうどんなわけないだろ!

 

「だけどタダシ!

あんたのインターネットは、さかさまなのよ。

 

タダシ

「・・・・・・

 

「ダウンロードも意味ないの。

 

■ タダシに「明日のジョー」のようなスポットライト。

 

タダシ

「・・・・俺は・・・俺はいったいどうしたら・・・

 

「一緒にお墓を立てましょう。

さかさまのインターネットを火葬にするの。

あんたの間違った17年間を成仏させてあげるのよ。

 

タダシ

「そうしたら・・・

俺は、

俺の意味ない17年間は・・救われるのか?

 

「もうわかっているはずよ。

タダシ、

自分が何をするべきなのか。

 

■ 姉、いつのまにか掃除機を手にしている。タダシ、ゆっくりうなずいて、掃除機を受け取る。スイッチを入れ、切符を吸い込んでゆく。

 

「(掃除機の音の中叫ぶ)そうよ、タダシ。

そうやって、役立たずのあんたの世界を、

全部アップロードしてしまいなさい!

 

■ タダシ、舞台上のいろんなものをどんどん吸い込んでいく。 その様子を見ている姉。 タダシ、静かに掃除機の電源を落とす。

 

タダシ

「何をしても無駄やっちゅうことはわかっとるんです。

せやけど、無駄やってわかるからこそ、あえてせんといかんことも

あるような気が僕はするんです。

無駄やってわかってるから、人間やったりできるんちゃうんかな。

なんぼかでも意味があるなんて、

そんなこと思い始めたら、

ぎょうさん人間乗せて、気違いみたいに走り回ったりでけへんのと

違いますか・・・・電車なんてその程度のもんです。

僕も姉も、誰も彼も、その程度のもんなんです。」

 

「いっちばんせぇんに電車が参ります。

危ないですから、

白線の内側まで、

下がってお待ちくださあぁぁぁぁぁぁぁい」

 

■暗転