ようこそ人類、ここは地図。

私たちにおける、素晴らしい座標を

10月8日、イベント詳細です。

f:id:niga2i2ka:20170922191541j:plain

 

先日お知らせしました「ときどき、透明になる家を作ろう!」のイベント申込ページができました。

イベントの詳細情報も載せておりますので、お時間ございましたらご覧下さいね。

 

2月5日による、参加型アート・イベント

「ときどき、透明になる家を作ろう!」

http://peatix.com/event/306169

 

今回、久々にインスタレーション作品を作れる機会に恵まれた事に対する嬉しい気持ちと「どんな風に着地するのかな」という予想のつかなさ、でこの数日は胸がヒタヒタしております。

 

インスタレーションの醍醐味は、作品に触れた人が自分の頭の中の余白を発見する、そのきっかけ自体に参加者自身がなる、あるいは自ら組み立てる、という点だと思っているので、このイベントも告知文を読むところから作品がスタートするようにデザインしていこうと思っています。

(参加型ながら、完成した「ときどき、透明になる家」も恒常的な作品として機能させたいと思っています)

泡立つコミュニケーション、限界が好き。

f:id:niga2i2ka:20170920113526j:plain

限りあるもの。

それは、面白く、切なくて、愛おしい。

 

終わりや範囲が決まっていることで、その内側の内容物はそこからはみ出さんと煮え立ち、ひとりでに踊り、極まっていく。

「ここまで」と定める限界線の周りには、湖の岸辺にたえず水が打ち寄せるがごとく、言葉が泡立ち、想いが砕けて、いつもいつもとても賑やかだ。

 

限界の線引きがなされているもの。

たとえば命。

たとえば、心。

それから、この肉体も。

 

命の範囲をここまで、と定める境界線を私たちは「死」と呼ぶ。

そして、その境界線である「死」の周辺には、それを語る多くの言葉が生まれる。

やがて尽きる命のはしっこを想いながら、命の内側について私たちは心を動かし、とめどなくお喋りを続ける。

まだ見ぬ世界の終わりを想いながら、そこまでの距離を楽しいお喋りで埋め立てようと夜を更かして、長電話を繰り返す。

 

人の心の限界は、他人と出会った時に生じる。

間仕切りのない弁当箱のように、心の中の内容物が他人の心へと自動的に流れ込んだなら、もはや言葉も眼差しもあらゆるコミュニケーションはお払い箱になるだろう。

 

けれど、私たちの心は、それぞれが別々のお弁当箱。

蓋つきの、中の見えない、お弁当箱。

中身を教え合いたいのに上手くいかず、四苦八苦している。

小さなお弁当箱を抱えながら、その限界がもどかしくて、今日もコミュニケーションは泡立っている。

 

肉体はわかりやすい限界だ。

皮膚、という境界線が私たちの範囲をそれと分かるように視覚化している。どこからどこまでが私なのか。それを計りやすい。

私たちの肉体は、ほかの肉体に成りかわる事はできない。 肉体は、乗り物であり、牢獄であり、呪いのようにどうしようもなく私たち自身だ。

そのせいなのだろうか。肉体は、ときどき、別の肉体と溶け合う瞬間を求める。

間仕切りをなくして、誰かの肉体とつながり、つかの間自分の輪郭線が見えなくなってしまうような、そういう瞬間を。

けれど、溶け合う時間を過ごすほどに、他人と自分とを分かつ境界線はありありとそそり立つ。

どんなにか泡立っても、水泡は破れて、もとの沈黙へと沈んでいく。

溶けたバターのように、誰かと合わさってしまいたい。

そんな事を考えて、けれど夏も終わるから、私はひとり言葉をかき混ぜ、また泡立たせている。

 

ときどき透明になる家を一緒に作りませんか?

f:id:niga2i2ka:20170918183416j:plain

 

アートイベント

『ときどき、透明になる家を作ろう!』のお知らせです。

 

先日、アムステルダムに住む友人の建築家から面白いペンキをもらいました。

 

彼いわく、

「これを塗ると、ときどき建物が透明になるんだ。僕は試したことないけどさ。オランダのアーティストや建築家の間ではすっごい人気でね。よかったら君も試して感想を聞かせてくれよ」

 

おお、それは是非!と受け取ったものの適当な建物が見つからず、わたしが途方に暮れていると、古民家ゲストハウスのオーナーから、

「うちの建物で良かったら塗りますか?透明になっても、透明にならなくても構いませんよ」

という素敵な申し出をいただきました。

 

そんなわけで、茨城県の古民家ゲストハウス「フロンティア・ファーム」さんにて、『ときどき、透明になるペンキ』を塗って、『ときどき、透明になる家』を作ってみようと思います。

 

「透明になる家を作ってみたい!」

「透明になるペンキって何それ?」

「日曜だからちょっと時間あるよ」

「ペンキ塗った事ないから塗りたいなぁ」

という方を募集しています。

ご興味ある方は2月5日宛てにご連絡下さいませ!

 

アートイベント「ときどき、透明になる家を作ろう!」

日時:10月8日(日)昼間〜夕方(途中参加・退出OKです)

場所:茨城県つくばみらい市南2135

参加費用:2000円(みんなで作ってワイワイ食べるお昼御飯つき!)

持ち物:汚れてもよい服装、運動靴、タオルなど。

問合せ先:niga2.5ka@gmail.com

 

※こちらのアートイベントは「生きるだけをやる〜デジタルデトックスで作る田舎生活」というイベントの1パートとして開催します。

「デジタル・デトックス」とは、日常生活で当たり前になっているスマホ、インターネットなどの刺激物を肉体から切り離し、自分自身の五感に耳を澄ませることで、心身に溜まった「デジタル・ストレス」をデトックスしよう!という体験型のイベントです。

 

アートイベント『ときどき、透明になる家を作ろう!』のパートのみのご参加も大歓迎です!

 

※参加費用は「生きるだけをやる〜デジタル・デトックスで作る田舎生活」にご参加の場合3500円、アートイベント「ときどき、透明になる家を作ろう!」のみご参加の場合は2000円です。

 

生きるだけをやる〜デジタルデトックスで作る田舎生活〜

https://m.facebook.com/profile.php?ref=bookmarks#!/events/289695598103442/?acontext=%7B%22ref%22%3A%222%22%2C%22ref_dashboard_filter%22%3A%22upcoming%22%2C%22action_history%22%3A%22null%22%7D&ref=bookmarks

戯曲『電車という病』

 

f:id:niga2i2ka:20170909193715j:plain

 

タダシ

「ぼくの姉は電車病です。

とりつくしまもないくらい。

電車病というのは、あ、姉貴どこいくんだよ。

 

「きまっているじゃない、タダシ。

線路を走りに行くのよ。

 

タダシ

「こんな夜中にあぶないだろう。

 

「ばかね、試運転できるのはこの時間しかないでしょう。

子供はさっさと寝なさいよ。

それとも一緒にメトロを走る?

 

タダシ

「姉貴、本当に危ないからよしてくれ。

回送列車に轢かれるぞ。

 

「回送列車なんて、跳ね飛ばしてやるわ。

いってきまーす。

 

■ 姉、照明の外へ。後ろ向きで立つ。

 

タダシ

「ごらんのとおり、何を言っても聞く耳を持ちません。

もとから姉には耳がついていないんです。

一度聞いてみたことがありました。

姉貴、どうしてそんなに線路を走りたがるんだよ。

 

「(振り向いて)何言ってるの、タダシ。

電車が線路を走るのは当たり前でしょう。

あんたこそおかしいわよ。

電車らしくないわよ。

銀色に光ってもいないし。

畳みの上でテレビなんか見たりして。

あんた本当にあたしの弟なのかしらね。

ちっとも電車に見えないんだから。

そりゃ、あたしの気持ちなんか

これっぽっちもわからないはずだわ。

弟の理解も得られないあたしって、

電車としては、わりと不幸ね。

あーあ、OLなんか辞めて、

山手線にでも転職しようかしら。

 

■ 姉、ねっころがり、観客に背を向ける

 

タダシ

「わりと不幸だと言うわりに、

姉はいつも、 僕がいる茶の間に来ては、

そばでゴロゴロしています。

OLだって、当分辞める気はなさそうです。

まんざら会社も悪くないのだと思います。

いや、それどころか・・

 

■ 姉、振り返って

 

「ねえ、タダシ。自慢じゃないけど、あたし、

会社のことが大好きなのよ。

会社のことを考えてると、

あそこがどんどん濡れてきちゃうの。

 

タダシ

「よしてくれよ。姉貴。

俺の前で、会社の話はよしてくれ!

毎日毎日、家に帰ればその話ばかり。

聞かされるこっちの身にもなってくれ。

姉貴だって、知ってるだろう?

明日は大事な試験なんだ。

俺の未来がかかってるんだ。

 

「あんたの未来なんか知らないわ。

でも、試験のことは知っている。

 

タダシ

「だったら頼むよ。

今夜だけ。

会社の話はよしてくれ。

 

「・・・なによ、タダシ。まさかあんた、会社の話が嫌いなの?

 

タダシ

「好きとか嫌いの問題じゃないんだ。

今は試験のことだけ考えたいんだ。

 

「試験のことだけ?

タダシ。

あんた、そんなにアレが好きなの?

 

タダシ

「だから別に、好きとか嫌いの問題じゃないんだ。

 

「じゃあ、あんたは、

アレが好きでたまらないってわけじゃないのね?

朝から晩まで、猿みたいに、

アレばっかりしていたいって訳じゃないのね?

 

タダシ

「ああ。別に、みんなやるから一緒にやるだけだよ。

あんなの、終わっちゃえばなんでもないさ。

 

「・・・なんでもない?

なんでもないのに、今夜はアレのことだけ考えたいって、

いったいどういうこと?

ひょっとして、あんた。

『自分に嘘をついてる』の?

好きでもないアレのことを、

それだけを考えようって、

自分の心を偽ってるのね?

いやだ・・・そんなのって自然じゃないわ。

・・・自然じゃない。

ねえ、タダシ。

あんたは自分を偽ってまで、いったい何がしたいのよ?

 

タダシ

「だからさっきも言っただろ。明日の試験には、俺の未来がかかってるんだ。

だから試験に受かりたいんだよ。

 

「未来のために嘘をつくのね。

内なる自然をねじまげるのね。

言っておくけど、ねえタダシ。

そんな風にしてできる未来は、100%不自然よ。

だとしたら、タダシ。

あんたの未来は、200%不自然よ!

 

■ 姉にあたっていた照明が消える

 

タダシ

「あんたの未来は、200%不自然よ。

その言葉を残して、姉は飛び出して行きました。

深夜の踏み切り。

満月の光はジャムのように照りつけて、

東西へ長く伸びる、中央線の線路に飛び散っているのです。

僕はどんよりと暗い街へ出て、線路沿いに姉を探します。

姉貴!姉貴!

かすかな気配に振り返ると、

真冬の暗闇。

冷えた枕木。

沈黙する鉄のレールの上。

走り去る姉らしき後ろ姿。

つっかけが金属とぶつかる音。

がつがつがつがつがつがつがつがつ!!

間違いなく姉貴だ!

寒さにガチガチと鳴る前歯の隙間から、

安堵の吐息が漏れました。

待ってくれ。姉貴。

俺が、俺が悪かったよ。

俺は、俺は、

ほんとはアレが好きだ。

俺はアレが大好きなんだ。

大好きなんだよ、チクショウ。

だからもう、

内なる自然はねじまがっちゃいない。

内なる自然は、

この中央線よりも、

ピンとまっすぐに伸びている!

だから、

だから、姉貴。

お願いだから、電車のフリはやめてくれ。

頼むよ、姉貴!!

こっちに戻ってきてくれよ!!!!

 

■ 姉に照明。ゆっくりと振り向く。

 

「まっすぐだとか、アレだとか。

ジャムのように線路に飛び散る満月だとか。

そんなことはどうだっていいのよ、タダシ。

あたしがさっきから言っているのはね、

インターネットのことなのよ。

 

タダシ

「い、インターネット?

 

「そうよ。タダシ。

現実を見るの。

あんたはインターネットの使い方を間違えている。

間違え続けてその歳まで育ってしまったのが

たぶん不幸の始まり。

 

タダシ

「なんだよ、それ。

初めて知ったよ。なんだよ不幸の始まりって。

俺のインターネット使いの、

一体どこが間違っているって言うんだよ?

 

「やっぱり気づいていなかったのね。

だったら今こそ教えてあげる!

あんたのインターネットはね、

あんたのインターネットはね!

 

タダシ

「俺のインターネットが、どうしたっていうんだよ?

 

「あんたのインターネットは、

いつも上下がさかさまなのよ!!

あんたが生まれて17年間、あんたのインターネットはずっとずっとさかさまだったの!!

 

タダシ

「・・・ショックでした。

まさか、

僕のインターネットが

今までずっと、さかさまだったなんて。

それに気付かずこの歳まで、

のん気に生きてきたなんて。

 

「驚くのも無理ないわ。

 

タダシ

「・・・ダウンロードは?

姉貴、

ダウンロードはどうなってるんだ?

 

「そんな顔をしないで、タダシ。

こんなむごい仕打ち、あたしだってしたくなかった。

 

タダシ

「いいから全部教えてくれよ!

ダウンロードは、

一体どうなってるんだよ?

 

「意味ないわ。

 

タダシ

「え?

 

「意味がないの。

 

タダシ

「何が?

 

「だから、さかさまのインターネットでダウンロードしたものなんて、

ぜんぶがぜんぶ役立たずなの!

 

タダシ

「な、そんな。・・・ぜんぶが全部って・・・

 

「たとえば、ほら。

あれが何に見える?

 

■ 姉は床を指差す。

 

タダシ

「・・・あれは、線路だろ。

 

「線路に見えるのね。

 

タダシ

「だって、線路だろ?

 

「あれは床よ。

 

タダシ

「線路だろ?!

 

「無理もないわね。

 

タダシ

「何言い出すんだよ。姉貴。

 

「じゃあ、あれは?

 

■ 姉は椅子を指差す。

 

タダシ

「猫だろ。

 

「・・・(深いためいき)

 

タダシ

「猫だろ?違うのかよ?

猫じゃなかったら、いったい何だって言うんだよ?

 

「落ち着いて、タダシ。

あれは、椅子よ。

 

タダシ

「どうかしてるだろ、姉貴。

さっきから何言ってるんだよ?

 

■ 姉、椅子に近づいていって、椅子を蹴っ飛ばす。

 

タダシ

「あ!

 

「どう?これでも猫だって言うの?

 

タダシ

「ニャーって鳴かない・・・

 

「椅子だからよ。

椅子だから、ニャーって鳴かないの。

 

タダシ

「そんな・・・・そんなバカな・・・

 

■ へたりこむタダシ

■ 姉、タダシをじっと見据えたまま、自分の頭を両手で抱える。

 

「じゃあ、タダシ。

最期に聞くわ。

あんたには、これは一体何に見える?

 

タダシ

「・・・・(ごくり唾を飲み込む)

姉貴の・・・あたまだろ・・?

 

「(哀れみに顔をゆがめて)かわいそうなタダシ。

あんたには、現実が何ひとつ見えないのね。

 

タダシ

「・・・・・

 

「先頭車両よ。

これは、中央線の、先頭車両。

 

タダシ

「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!!!

 

「現実を見なさい、タダシ!

あんたもあたしも、まぎれもない電車の姉弟なの!

それを知らないのは、あんただけ!

認めないのもあんただけ!

 

タダシ

「俺も姉貴も電車なら!親父とお袋は何なんだよ?!

 

「(信じられないという顔で)それを・・・聞くの?

そんなことをあたしの口から言わせたいの?

 

タダシ

「じゃあ他に誰に聞くんだよ?!

姉貴のほかに誰に聞いたらいいんだよ?!!

 

「そんな風に責めないでよ。

お父さんもお母さんも、好きで早死にしたんじゃないのよ。

 

タダシ

「・・・悪かったよ。

 

「うどんよ。

 

タダシ

「・・・・

 

「お父さんはうどんよ。

 

タダシ

「うどん屋・・

 

「違う!うどんよ。炭水化物の。

 

タダシ

「な、ば、・・・うど・・

 

「お母さんは、臼。

 

タダシ

「うす?

 

「正月に出してきて餅をつくでしょう。あの時の臼・・

 

タダシ

「んなこと知ってるよ!

なんだよ臼って!

なんでお袋が臼で、親父がうどんなんだよ!

 

「出席番号が近かったの。それですぐに恋に落ちたの。

 

タダシ

「ありえないだろ、どう考えても!

「だって仕方がないでしょう!

どんな組み合わせの二人だって、

男と女は恋に落ちるし、セックスすれば子供ができるのよ。

 

タダシ

「そういう問題じゃないんだよ!

そういう問題以前の問題なんだよ“

臼とうどんがセックスして、電車の姉弟が産まれるなんて、

そんなバカな話あるわけないだろ!

俺たちの親父とお袋が、臼とうどんなわけないだろ!

 

「だけどタダシ!

あんたのインターネットは、さかさまなのよ。

 

タダシ

「・・・・・・

 

「ダウンロードも意味ないの。

 

■ タダシに「明日のジョー」のようなスポットライト。

 

タダシ

「・・・・俺は・・・俺はいったいどうしたら・・・

 

「一緒にお墓を立てましょう。

さかさまのインターネットを火葬にするの。

あんたの間違った17年間を成仏させてあげるのよ。

 

タダシ

「そうしたら・・・

俺は、

俺の意味ない17年間は・・救われるのか?

 

「もうわかっているはずよ。

タダシ、

自分が何をするべきなのか。

 

■ 姉、いつのまにか掃除機を手にしている。タダシ、ゆっくりうなずいて、掃除機を受け取る。スイッチを入れ、切符を吸い込んでゆく。

 

「(掃除機の音の中叫ぶ)そうよ、タダシ。

そうやって、役立たずのあんたの世界を、

全部アップロードしてしまいなさい!

 

■ タダシ、舞台上のいろんなものをどんどん吸い込んでいく。 その様子を見ている姉。 タダシ、静かに掃除機の電源を落とす。

 

タダシ

「何をしても無駄やっちゅうことはわかっとるんです。

せやけど、無駄やってわかるからこそ、あえてせんといかんことも

あるような気が僕はするんです。

無駄やってわかってるから、人間やったりできるんちゃうんかな。

なんぼかでも意味があるなんて、

そんなこと思い始めたら、

ぎょうさん人間乗せて、気違いみたいに走り回ったりでけへんのと

違いますか・・・・電車なんてその程度のもんです。

僕も姉も、誰も彼も、その程度のもんなんです。」

 

「いっちばんせぇんに電車が参ります。

危ないですから、

白線の内側まで、

下がってお待ちくださあぁぁぁぁぁぁぁい」

 

■暗転

わたしが雨を好きなのは。

f:id:niga2i2ka:20170906152549j:plain

あさ起きて、まどのそとが雨の音にみたされていると、

ふと、思い出すのです。

わたしのこのうつくしい孤独を。

 

この世界において与えられた、私というひとつの小部屋。

その場所は、どんなふうにはげしく、雨が降りつづけたとしても、 湯気ひとつたてずに、乾いて、ここちよく、まもられている。

 

水びたしになどならない、かんぺきなこの孤独。

 

傘をもった人たちがひしめく、のぼりでんしゃのホームから、くろくぬれた線路を眺めるこの目には、 細くのびる金属が、まるで生きているように、かがやいて動き、 わたしをそそのかすのです。

 

だれかの秘密の小部屋を、そっとのぞき見てはいかがと。

 

退屈したような車内には、たくさんの孤独が、 コートに雨のしみを作りながら、ゆらゆらとひしめいて、 何も思わない目つきで、ふる雨を、まぬがれている。

 

列車がうごきだすと風に吹かれて、液体はまどにへばりつき、わたしは思い出している。

 

わたしがまだ、この世界に降る雨粒の中の一滴にすぎず、

わたしがこんなにもまだ、孤独ではなかったころの記憶を。

 

ああだけど、それをはっきりとは思い出せない。

あまりにも曖昧なかたちに、 窓ガラスの上で溶け合っている、幾本もの雨のすじ。

その輪郭など、はっきりと思い描けない。

わたしが世界の一部分として分かたれた、それ以前のことなど。

めくじら

f:id:niga2i2ka:20170904150607j:plain

 あんにょん。

 

目くじらを立てている人が南にいるというので、会いに行くとそれは事件。

巨大な海の生き物が、その人の瞳にぶすと突き刺さっている。

 

だいじょうぶなのですか。

 

くじらをなでなで触りながら私が質問すると、

あまりだいじょうぶではありませんよ、

とその人は答えて。

でもしかたがないのです。

困ったものだと空を見る。

すると刺さったくじらのしっぽの方が、それに合わせてぐいんと上を向く。

 

じつは来週妻が出所してくるものですから、目印を出しているんです。

彼女はぼたん泥棒の罪をゆるされて、百年ぶりに出てきます。

 

奥様はぼたん泥棒? 

 

そうですよ。

あなた知らないのですか。

百年前、長野県諏訪市内で起こった「ぼたん三億個強奪事件」を。

 

はつみみですし,ぼたん三億個もいったい何に使うんでしょう。

私にはわかりそうもありません。

 

まあ若い人はそうでしょう。

今はミシンがありますから。服も丈夫に買えますから。当時と世相も違います。

 

私の妻は不器用でして、ぼたんがうまくつけられなくて。

不安に駆られたのでしょうね。

 

「このまま一生ぼたんがつかなかったら、いったい何を着て生きてゆけばいいのやら」

 

チャックがまだない時代でした。

だけど着物で生きるにはもう遅かった。

恐れた妻はぼたんを盗み、いまは刑務所暮らしです。

家族は百年待ちました。

 

目くじらを立てている人が悲しそうにうつむくと、くじらのしっぽが地面にあたって、その人はそれ以上、下を向くことができないようでした。

透明なくらし

f:id:niga2i2ka:20170902160310j:plain

 

ゆふがた

きっぷをてにつかれたおかおで

おつとめからかえっていらっしゃる

かえるあなた

 

よくしつをあたため

おゆうしょくのしたくをして

かみをとかしてからえきまで

えきまであなたむかへにいって

きえさるわたくし

 

えきからのさかみち

くだりながらとぼとぼ

わたくしとあなた

まるでひとそろえの

おはしのようにいつも

ならんであるきゆくどんどんと

どんどんとゆくしわす

ゆくしわすいずこ

 

ほんじつのこんだてを

おしへてあげましょうかあなた

おんせんのようにあたためた

ゆどうふとおみおつけ

しゃっきりといただける

れんこんのあえもの

それからかんにしたおさけも

ごいっしょにめしあがれ

 

ごいっしょにめしあがれ

 

はしらどけいがときをきざむ

ちいさなやしきだんらんのいま

ただじこくをつぶやくとけいのこえだけ

きいておかおをみつめますあなたの

 

ああまたなにか

なにかあなた

かんがへごとをしているのですか

そうなのですかと

 

わたくしにどうか

あなたのいろいろをきめさせて

きめつけさせてくださいな

 

わたくしいがいのいろいろに

あなたはこころをなやませて

ここにはいないあなただと

うそでもほんとにおもはせて

 

そうそうだあれもここにはいない

いないひとならこころもいない

 

そうそうだからうわのそら

 

あなたはいつでもうわのそら

やさしいくせにうわのそら

 

それもけっこう

それもけっこう

 

わたくしなんにもわずらひません

ただただかうしていられれば

 

つまらぬものをたべさせて

つまらぬはなしをくりかえし

あきてもまだなおあなたにだかれ

つまらぬをんなとおもわれて

 

それがいいそれがいい

どうかどうかとまたせがむ

 

そんなをんなをあいしてくれる

やさしいあなたはいないかと

 

あきらめながらほんじつも

ほほえみながらてくてくと

えきへとまいり

まいりますわたくし

 

だれかをさがして

あのえきへ

きえさるまえにあのえきへ

 

ゆふがた

さびしくつかれたかおで