この二週間ほど、めまいがやまず、まっすぐと歩けない。
いつも船の上にいるようである。
地面が揺れている。
しばしば地震が起きているのかと間違う。
居合わせた人に尋ねると、揺れてはいない、と答えが返ってくるので、嗚呼これはわたしの肉体だけに起こっている個人的地震なのであるな、と結論して医者にかかる。
目を塞がれて体をぐるぐる転がされたり、仁王立ちになって赤い目印を見続けたり、ヘッドホンを耳にあてがい微細な音波に合わせて指でスイッチを押す、など各種点検をほどこされた末に、突発性難聴か、ストレス性のなんとか、メニエールは違うようだけれど、さあどうだろうか、とりあえずもうすぐお盆なので粉薬を処方します、と医者が言う。
耳鼻科の待合室では子供たちが走り回っている。
そうか世間はお盆休み、夏休み、そういう季節であるのだな、と処方箋をひらめかせて夏を感じ、朝晩と粉薬を飲み飲み横になっている。
体を立てようとすると、地面がぐらつく。
ぐらついているのは自分の方なのだけれど、感覚としては逆だから不思議だ。
真面目に養生しているものの、一向に回復していかないので、不安な心持ちが時折きざす。
このまま一生涯をひとり船の上で過ごすことになるのだろうか。
磯の香りだにしない栃木県の畳の上で。
扇風機の風に吹かれながら。
やけになって外へ飛び出す。
地上に降りるための階段がうまく踏めず、飛び出し損ねる。
このままめまいが止まなんだら、いっそ本当に船乗りになってしまおう。
曇天模様の空を見上げながら、そんな事を考える。
訓練はすでに勝手に始まっている。
一歩リードだ。
いまは微塵もない私の中の船乗り願望が現実味を帯びることがあれば、この訓練は無駄ではなかろうと思う。
何も焦ることはない。