ー今回はインタビューをお受けいただき、ありがとうございます。
「こういった取材というのは、基本的にお受けしていません。
しかし、タイムマシーンについては誤解も多く、一度くらいはきちんとお話したほうがよかろう、というのが今回の判断です。」
ーお話を聞ける貴重な機会ですから、さっそく質問を始めさせていただきましょう。
まずはじめに、タイムマシーンを作るための、特別な場所があるというのは本当ですか?
「もちろんです。
タイムマシーンは大変に特別な場所で制作されています。
私たちはその場所の地図を描くことができますし、入り口を示すこともできます。
しかし、その場所を実際に訪れることができるのは、肉体とこころをその場所に運ぶ、と決めた人間だけです。」
ーなるほど、タイムマシーンの扉は、選ばれた人間にだけ開かれている、という感じでしょうか。
「選ばれた人間ではなく、決めた人間です。
タイムマシーンにおいて、選ぶ、選ばれるということを考えるのは、意味のないことです。」
ーそれでは、すべての人間にタイムマシーンの扉は開かれている、と言い直しましょう。
「その言い方の方がふさわしいと思います。」
ーそれにしても、タイムマシーンを作る、と聞くと想像が膨らみますが、具体的にはどんな材料やプロセスを必要とするのでしょうか。
「正確には、タイムマシーンは作るものではありません。
すでに皆さんの中で完成しています。
私たちが制作室でやることは、すでにあるタイムマシーンを意識的に動かすこと、動いている、と気がつくこと、そして自分以外の人間のタイムマシーン、その存在や在り方を想像すること。
材料は、すべて、みなさん自身の中にあるものばかりです。
それぞれが持ち寄ったタイムマシーンがどのように違っていて、どのように似ているのか。
それをただ味わうこと。
これがもっとも重要なプロセスです。
言葉に置き換えたり、意味や物語のフォーマットにむりやり当てはめようと試みると、タイムマシーンの生み出す微妙なニュアンス、大切なエッセンスはどんどん損なわれていくでしょう。
それを避けるために、私たちの制作室では、極力タイムマシーンが、あるがままの状態でいられるように、手助けをします。」
ーそれでは「制作」と言っても、実際に手を動かして形あるものを作る、という事ではないのですね?
「そのとおりです。
それはすでに完成しています。
形は持たない状態で、すでに完璧に出来上がっています」
ーその、形を持たないタイムマシーンが「あるがままの状態でいる」というのは?
「たとえば実際に何人かでタイムマシーンを動かしたときを想像してください。
それぞれの中にある、それぞれのタイムマシーンを、です。
その時タイムマシーンが過去へと向かう人、未来へと向かう人、ここではないいつか、名づけ得ぬ地点へと旅をする人もいるでしょう。
その時間軸の旅の中で、タイムマシーンの窓から見える景色を、こんな景色が見えた、などと周りの人に報告する必要はありません。
私たちも何が見えたか、どんな気分か、などと質問したりすることはしません。
なぜならば、何らかの「言葉」に置き換えた時点で、その人の中にあるイメージの一部、あるいは大部分は失われ、「言葉」に付着した意味や他人の作ったイメージがかわりに紛れ込み、その人の見た景色は、味わった感覚は、まったく違う何かに変質してしまうからです。」
ータイムマシーンを味わうプロセスにおいて、感想を言ったり、意見交換などはするべきでないと?
「もちろん、思ったことや、伝えたいことを言葉に乗せてコミュニケートすることは素晴らしいことです。
しかし、人間の意識という場所には、言葉ではうまく捉えきれないものがたくさん溢れています。
いやむしろ、言葉になる領域の方が少ない。
そう言った方が正確でしょう。
ほかの人がいるから、何かうまい感想を言わなければ。
そんな風に心が働いてしまうことや、自分の中でも言葉にならない感覚を、なにか既存の言葉に置き換えて、人に伝える、というのは、社会的な振る舞いとしてはごく当たり前のように行われていますが。
私たちにとっては、あまり良い作用を持つとは思えないものです。
そのような態度は、私たちに言わせれば、この世に一つしかない美しい宇宙を、ダンボール箱に投げ入れて、どこか適当な場所に積み上げておけばよい、というような感じを受けるのです。
とりあえず、そこにあるものは片付く。
しかし、ふさわしい扱いではない。
とりわけタイムマシーンに関しては、そういった態度でいることは野蛮だと考えています。」
ーなるほど、そうですか。おっしゃることが、なんとなく分かってきました。
「ご理解いただいて、感謝いたします。」
ーそれではつまり、要約すると、あなた方の制作室では、時間旅行ができる乗り物を作るわけでもなく、写真や言葉で過去の懐かしい思い出を見せ合うのでもなく、ただ何人か人を集めて、それぞれが昔のことを振り返ったり、遠い先の未来を想像したり、何も言わずぼんやりする。簡単に言えばそういうことになりますね?
「おっしゃる通りです。
それ以上でもそれ以下でもありません。
人間の意識以上に素晴らしいものはありませんし、そこに必要以上に手を加えることはまったくもってナンセンスです。
中途半端なテクノロジーを披露したり、小手先の意見交換で社交パーティを開くほど、私たちは明るくほがらかな人間ではないのです。
私たちが興味をそそられているもの。
それは、ただただタイムマシーンなのです。
すでに完成しているタイムマシーンの素晴らしさを、言葉なく見つめ、味わい、耳を澄ませる。
これ以上に森羅万象に優しく、あたたかい振る舞いがあるでしょうか。
ですから、何かお祭り騒ぎや手品の類を期待して来ていただいても、がっかりなさるだけでしょう。
私たちの制作室では、訪れる人がもっとも素晴らしいものを手にしてやってくるのです。
宇宙を差し出す人に向かって、一体どんな品物をお出ししたら礼儀にかなうのやら。
どんなマナーブックをめくっても、その回答は見つからないことでしょう。
もちろん、せっかく訪ねてくださる人に、コーヒーの一杯くらいは、お出しするかもしれませんが。
私たちにできるもてなしと言ったら、せいぜい、そのくらいのものですよ。」
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「森羅万象に優しいタイムマシーン制作室」
2018年10月29日(月)19:15スタート ※完全予約制
@吉祥寺BLACKWELL COFFEE
チケットは10月10日よりBLACKWELL COFFEE店頭で販売。
(メールにてもご予約を承りますが、店頭販売分が優先となります)
niga2.5ka@gmail.com
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