あさ起きて、まどのそとが雨の音にみたされていると、
ふと、思い出すのです。
わたしのこのうつくしい孤独を。
この世界において与えられた、私というひとつの小部屋。
その場所は、どんなふうにはげしく、雨が降りつづけたとしても、 湯気ひとつたてずに、乾いて、ここちよく、まもられている。
水びたしになどならない、かんぺきなこの孤独。
傘をもった人たちがひしめく、のぼりでんしゃのホームから、くろくぬれた線路を眺めるこの目には、 細くのびる金属が、まるで生きているように、かがやいて動き、 わたしをそそのかすのです。
だれかの秘密の小部屋を、そっとのぞき見てはいかがと。
退屈したような車内には、たくさんの孤独が、 コートに雨のしみを作りながら、ゆらゆらとひしめいて、 何も思わない目つきで、ふる雨を、まぬがれている。
列車がうごきだすと風に吹かれて、液体はまどにへばりつき、わたしは思い出している。
わたしがまだ、この世界に降る雨粒の中の一滴にすぎず、
わたしがこんなにもまだ、孤独ではなかったころの記憶を。
ああだけど、それをはっきりとは思い出せない。
あまりにも曖昧なかたちに、 窓ガラスの上で溶け合っている、幾本もの雨のすじ。
その輪郭など、はっきりと思い描けない。
わたしが世界の一部分として分かたれた、それ以前のことなど。