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2月5日、またはユミのブログ。

めくじら

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 あんにょん。

 

目くじらを立てている人が南にいるというので、会いに行くとそれは事件。

巨大な海の生き物が、その人の瞳にぶすと突き刺さっている。

 

だいじょうぶなのですか。

 

くじらをなでなで触りながら私が質問すると、

あまりだいじょうぶではありませんよ、

とその人は答えて。

でもしかたがないのです。

困ったものだと空を見る。

すると刺さったくじらのしっぽの方が、それに合わせてぐいんと上を向く。

 

じつは来週妻が出所してくるものですから、目印を出しているんです。

彼女はぼたん泥棒の罪をゆるされて、百年ぶりに出てきます。

 

奥様はぼたん泥棒? 

 

そうですよ。

あなた知らないのですか。

百年前、長野県諏訪市内で起こった「ぼたん三億個強奪事件」を。

 

はつみみですし,ぼたん三億個もいったい何に使うんでしょう。

私にはわかりそうもありません。

 

まあ若い人はそうでしょう。

今はミシンがありますから。服も丈夫に買えますから。当時と世相も違います。

 

私の妻は不器用でして、ぼたんがうまくつけられなくて。

不安に駆られたのでしょうね。

 

「このまま一生ぼたんがつかなかったら、いったい何を着て生きてゆけばいいのやら」

 

チャックがまだない時代でした。

だけど着物で生きるにはもう遅かった。

恐れた妻はぼたんを盗み、いまは刑務所暮らしです。

家族は百年待ちました。

 

目くじらを立てている人が悲しそうにうつむくと、くじらのしっぽが地面にあたって、その人はそれ以上、下を向くことができないようでした。