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私たちにおける、素晴らしい座標を

夏籠人間模様、解読絵巻

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悩ましきことのつくづく。

ジパング
四季の国がゆえに
葉月ともなると都市は
砂と石と油の床にずぶと埋まりて
どこもかしこも地獄に似た灼熱が常なり。

殊更に
人の集うところ
人肌くるみたるその温もりども
密に集うがゆえに風神様も力及ばず
微風そよがすに留まりはべりぬ。

目覚めては
山の手電車でついと走れど
内側の気色はさながら蒸した湯屋のごとく
額に汗したる人どもの見苦しき様よ。

湯屋ならば
水を打ち冷ますこともできようが、
人々ひしめき合いたる籠の中では
それも叶わず。

ただ目当ての駅に想いを募らし
気を紛らわせけれど
やがて、
それにも飽き飽きて
籠の内の人々眺め
心平らに過ぐす術を見つけることにす。

額に汗したる男

執刀中の外科医と思うべし。
人命をその手で動かしたる最中。
額を汗でしとどに濡らすも不思議ならず。
持ちたる手拭でそっと雫を押さえてやるもよし。
同じ籠に乗り合わせたるは幸運なり。

座席で化粧に耽る娘

肺呼吸できぬ民。
白粉に見えし粉は酸素の粉なり。
粉末酸素を顔面の皮膚に塗りて
呼吸をす。
紅差すも同じ理なり。
酸素の粉顔から剥がれかかりたる折
生命危うし。
指摘すべし。

眉間に皺寄せたる人

これより土下座に向かう人なり。
地に頭擦り付け許し請う事情あり。
心重く、気持ち晴れぬこと泥の如し。
同情すべし。

にわかに怒り出す人

お殿様なり。
下々の日々の暮らし見物にまいりたまふ。
されど、
その余りの苛酷に身をやつすこと耐え切れず
お忍びの御身もお忘れになりて
籠の中、暑さの渦中に御乱心。
江戸城への乗り換え電車教えるべし。

言葉曖昧聞き取れぬ車掌の声

まだ赤子なり。
言葉よく知らず
舌も思うようには回らぬが
声だけは大人びて野太し。
家計のため里子に出されるも
ろくに食事にもありつけず栄養不良。
不憫極まりなし。


くどくどと身の上話する人、多くは五月蝿し。
よき人の口に出して己が身の上物語る人
極めて稀なり。
されど、
物言わぬ物
物言わぬ人こそ
よく心の眼を凝らせば雄弁に口上す。
その言葉聞くべし。