ようこそ人類、ここは地図。

私たちにおける、素晴らしい座標を

わたしは自宅待機の勇者。

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旅に出たくないのには色色わけがある。

 

まずは遠方へ出かけるほどに住み慣れた屋敷から肉体が離れ、その物理的な距離の巨大さにおののく心はぽきと折れ、つまりはこの身を貫く太き自宅愛ゆえのホームシック。

 

同行の人間たちが息をのむ素早さで我が家を懐かしむそこはまだ往路。

あるいは旅先の宿にて悩ましきことの最たるは弱小ドライヤーのため息がごとき微風。濡れ髪を持て余し生きた土左衛門となりて湯処より戻れば、何者かの手によって作戦終了後の室内。


すでに敷かれた敷布団掛け布団。
饅頭の白さの不気味な綿枕。
知らず本日はもう終了でございますと入眠のタイミングまでもが強いられてお得な宿泊プランはるるぶかどこかで予約したものだが、決して得をした気分にはなっていないのはどういうわけだ。
外も内もしんしんと静かな温泉宿の夜に口が話す言葉だけ妙に粒立って隣室近所迷惑を恐れ早く寝る。

 

愛読書もインターネットもはなまるうどんも手が届かない温泉街を激しく憎みながら、なぜうっかり旅に出たのかを自問し続けるはめになる率が10割。
寺や城を見物するは面白いが、その物見遊山のために他人がいつの間にか整えた布団で寝なくてはならないとすればどうか。