落ち着かない人生を送っている。
物理的にも、心持ち的にも。
ひとつの場所に腰が座るという事がない。
いつも重力とあやふやな関係を保ちつつ、ふわふわ漂っている。
そういえばこの間、ひさびさに数えてみたら、もう人生で18回も引っ越している。
実家を出てからは、14回。
年齢で割ると、生まれてから今まで2年に1度は引越している計算になる。
転居回数を年齢で割る意味は特にないのだが、頻度の高さというか、無駄さ加減をお伝えしたくて割ってみた。
引越しの内容も、ちょっと居候、とかではない。
冷蔵庫から洗濯機から一人暮らし用の家財道具を一式トラックで運び出し、移動して、また運び入れて、ちょっといい感じのインテリアとか家具を揃えちゃう感じの本格的な引越しだ。
新居の選定、契約、生活インフラの手配をすべて済ませて、引越し業者にお兄さんと大型トラックを発注し、古巣の処分と新天地の整備をほぼ同時進行で行う。
住民票をああしてこうして、郵便物はこっちに送ってね、と最寄りのポストにおねだりする。
こうやって書いていると、引越しはそこそこ面倒だ。
しかし慣れてしまったせいか、私にとっては旅行に行くよりは気楽な作業である。
そんなこんなで14ヶ所も転々とした、この10数年。
いったい何があったのだ。
人が聞けばそう思うことだろう。
念のために言っておくと、私は転勤族でもジプシーでもない。
借金取りから逃げているわけでもない。
いろんな街で暮らしてみたい、なんて優雅な征服願望もない。
それだのに、けっこうな頻度で引越しはやってくる。
台風みたいに、突然南の方で発生して、翌朝には九州のあたりを通過、本州に上陸。
すぐに私も暴風域に入る。
わ、引っ越さなくちゃ。やばいやばい。いそげいそげ。
で、引っ越す。
金もかかるし、また引越したのか、みたいな事になる。
そんなこんなで「そろそろ落ち着きたい」と人に相談したら、あなたには無理、と一蹴された。
忌憚なきアドバイザーは頼もしいが、その発言は時々私を傷つける。
私のナイーブさにもっと配慮してほしいと思うけれど、図々しい人間だと思われたくないので黙っている。
わたしには無理、の理由も何だか釈然としないまま相談タイムが終わる。
ちなみに現在の住まいは、コンビニが全然コンビニエントじゃない距離にある。
失敗したマニキュアを落としたくて除光液を買いに行こうと思い立ってから、店にたどり着くのに2週間かかった。
Amazonで注文するか、アンコンビニエンス・ストアに歩いて行って買い求めるか、ぐだぐだと悩んだせいだ。
徒歩で買いに行ける品物をわざわざ遠方から取り寄せる理不尽。
それと闘っていたら時間ばかりが過ぎた。
最寄りの駅に止まる電車は1時間に2本。
タクシーは透明で見えない。
繁華街も商店街もない駅前には、廃墟みたいなスナックの建物が数軒。
営業しているのか定かではないから、見た目どおり廃墟なのかもしれない。
正直こんなシュールな場所に住むつもりはなかった。
来るつもりもなかった。
来た道のりさえも覚えていない。
ワープ。
この引越しはワープだろう。
私の人生のそこかしこに、本意ではない予想外の地点へとワープしてしまうスイッチがあるのではないか。
うっかりそれを押しているのではないか。
それなら他の人はどうやって、ワープを回避しているのだろう。
たずねたところで、「ワープ?」となる可能性は十分に承知しているが、一度だれかに聞いてみたい。