ようこそ人類、ここは地図。

私たちにおける、素晴らしい座標を

小説

雨つろう、輪切りのユートピア(言葉によって、言葉を忘れる。すべての生き物のために)

雨は動く線だ。 誰かの思いつきのように、その線はいつも脈絡なく開始される。 線は、巨大な余白にすばやく描きこまれて、質量と運動性をもっている。 うねりながら落下し、無制限に数をふやす。 まるで、生き物のように。 白い余白が幾本もの線によって埋め…

はいはーい、と返事をします夏は

決して、決して、私はねこのことばかり考えているわけではなくて、何だかとても辛いこととか、出口が見えないこととか、出口というか入り口もどこだったんだ、みたいなこととか、本当にいろいろと悩ましいことがありすぎて、息できない、みたいな感覚になっ…

子を憎んでも、母。

親になる事とは、無縁で生きていくのだと思っていた。 命を預かり、守り、育むという仕事が自分の人生に舞い込むことを想像して楽んだ日もあったが、それはもはや遠い過去の話である。 改めて人生を振り返ってみれば、結局親になる事はいつも自分から遠かっ…

小説という肉体、抱擁のために

「小説」は現実の世界に足を踏みしめながら楽しむことのできるフィクション、だと思っている人も多い。 「小説」は物語で、謎解きで、歴史や世界を教えてくれる情報源。感動の装置。 世間では、広くそのように考えられているように思う。 この現実世界を構成…

遺失物をください。とても美しいやつ。

ここはいったい何処なのですか。 古い家の窓はまるで四角形のコマ割り。 私を人生に閉じ込めているこの直線を憎んでも 仕方ないので、何も思わない。 硝子障子の内側から、視線はビームのようにはみ出していく。 神様がくれた私の所持品。 小さな頭を気に入…

森羅万象に優しいタイムマシーン制作室2

私は記憶。 地上の滅びたシーンたちが、私の中にまとまっている。 スケッチブックのように綴じられて。 あなたは時間。 私を切り取り、選り好んで、参照する。 美しいシーンを増やすのが、あなたの仕事。 そして私たちは人間。 世界を未来から過去へと変える…

愛の棒読み、おやゆびを削除。

口説かれるのは退屈。 もっと絶望してください。 自販機のぼたんをおや指で押すみたいに、 手に入れようとする。 無邪気だからやめて。 そんなしぐさは。 きっと不謹慎な人がすてき。 手のひらでこすって。 花を摘むかわりに、 永遠に取り消す。 安全地帯の…

けっこんしきをあげよう。

だいじょうぶ、 だいじょうぶと言う君の心臓が血液をこぼす。 殺してくれと鳴き叫んでも、もうだいじょうぶだよ。 殺すかわりに僕は愛す、きみもきみのじんせいも。

森羅万象に優しいタイムマシーン制作室

「優しさなんて、きぶんの問題。」 小学5年生の君が、宿題のドリルをめくりながら顔も上げずに言い放ったのは夏の終わり。 「大切なものが目に見えないなら、目って何のためにあるの。」 教訓を散りばめたフィクションに悪態をつくことを覚えて、すっかり反…

世界が滅びてもいいなんて嘘つき。

世界なんて滅びてもよいの。 あなたとわたし、ふたりきり残して。 さっさと滅びてしまえ。 余白だらけになってしまえ。 完璧も片手落ちも曖昧も不透明も、 意味たちはすべて光になってしまうのが正しい。 風のように賢いあの人は。 風のように去ってしまうあ…

戯曲『電車という病』

タダシ 「ぼくの姉は電車病です。 とりつくしまもないくらい。 電車病というのは、あ、姉貴どこいくんだよ。 姉 「きまっているじゃない、タダシ。 線路を走りに行くのよ。 タダシ 「こんな夜中にあぶないだろう。 姉 「ばかね、試運転できるのはこの時間し…

わたしが雨を好きなのは。

あさ起きて、まどのそとが雨の音にみたされていると、 ふと、思い出すのです。 わたしのこのうつくしい孤独を。 この世界において与えられた、私というひとつの小部屋。 その場所は、どんなふうにはげしく、雨が降りつづけたとしても、 湯気ひとつたてずに、…

めくじら

あんにょん。 目くじらを立てている人が南にいるというので、会いに行くとそれは事件。 巨大な海の生き物が、その人の瞳にぶすと突き刺さっている。 だいじょうぶなのですか。 くじらをなでなで触りながら私が質問すると、 あまりだいじょうぶではありません…

透明なくらし

ゆふがた きっぷをてにつかれたおかおで おつとめからかえっていらっしゃる かえるあなた よくしつをあたため おゆうしょくのしたくをして かみをとかしてからえきまで えきまであなたむかへにいって きえさるわたくし えきからのさかみち くだりながらとぼ…

マジカル・リサイクル・サービス

マジシャンになりたいと思ったことは一度もない。 タネとしかけを育てるのにずいぶん骨が折れると子どもの時から聞かされていたし、ほとんどお手本に近い失敗例を間近に見ながら育ったせいだ。 僕のパパンは生まれて1時間もたつともうマジシャンになると言い…

大名庭園、お着物道を通りゃんせ。

まあこう見えて、あたしはこわがりやから、世の中にはこわいことってぎょうさんあると今まで思ってたんよ。 せやけどな、ほんまにおそろしくて、足ビビビってすくんでまうような、そんなおっとろしいもんなんて、そうそうあらへんねやってあたし、こないだ分…

幽体離脱の父。

困っているのは、ほかでもない 私の父のことなのです。 いったい、いつから始まったのか、 私もくわしく知りません。 よくよく記憶をたどってみれば 確かに、赤いランドセル。 わたしが九九を習うころ 事態はすでに あのすがた あのころ わたしが恐れたもの…

宇宙人のきもち。

宇宙人のきもち、を考えるときの私は、 だいたい地球人のきもち、を考えてしまっているのです。 宇宙人のきもち、を考えるときのいちばんのちゅういは、宇宙人は地球人にあらず。 そのことをちゃんと、よくよく、考えること。 それにつきるのだ、とファミマ…

発明の国、ヒラメキア円卓会議。

紫陽花型の爆弾を作ろうと思ったけれど 紫陽花というのはたちまちに滅びて ピカピカとはしておられぬ性質らしく 紫陽花型の爆弾を仕掛けたところで 爆発までのしばしの期間 ちっとも枯れていかぬのは 怪しいぞ怪しいぞなんて 顔を覆いたくなるほどに怪しまれ…

ぼくは供物。

お兄さんがもうだめだらうと言うので、僕はあきらめてしまいました。 今までのようにおもてを出歩いたり、お友達に会ったりすることもせず、昼間でも部屋を暗くして、鼻をほじったり、コップの水をぶくぶくと吹いて、あとは始終あおむけになって天井ばかりを…

良くも悪くも記憶に残る基礎挨拶講座その1。

とっても元気な小中学生、そして日本全国の大人のみなさん。 挨拶はすべてのコミュニケーションの基本です。 さっそく以下の例文を参考に、人様の記憶に残るステキな挨拶人を目指して練習してみましょう。 大きな声で、ご一緒に! ●朝ごはんを食べる前に 「…

男、はじめました。

梅野さやかさんはつい最近、暦が春へと移ったのをきっかけに煙草をやめて、かわりに男と寝ることをはじめました。 はじめたばかりのころはジッポライターの油の香りやマルボロメンソールライトの美しい翡翠色のパッケージが恋しくて恋しくてたまりませんでし…

平成家族賛歌。私は家族が大好きです。

おとうさまが押入れの中で憲法を読み上げていらっしゃるあいだ、 おかあさまはお風呂場で、お皿を千枚割りました。 おにいさまがまだ温い食べものを捨てた土の上に、 おねえさまがぴかぴか光る指輪の種を蒔いて育てています。 素敵な家族をもう一度、みなさ…

ファンタジーについて。

ここに記すのはファンタジーについての記録だ。私の人生とそこに出てくる登場人物たちを飲み込んでいるファンタジーについて。その記録。備忘録。不正確かもしれない幾つかの出来事についてのごく個人的な私の感想と意見。分析のための分析。忘れないために…

紙の家

離縁をするにあたり、いろいろと新しくものを知る機会を得たのが、この若芽どきの収穫と言えば収穫なのでした。 五月雨式に片付けごとは増えてゆくのに、かえってぽかんと頭の中身を動かせないでいるような、そんな時間も多いもので、どんどん自分が底なしに…

夏籠人間模様、解読絵巻

悩ましきことのつくづく。 ジパングは四季の国がゆえに葉月ともなると都市は砂と石と油の床にずぶと埋まりてどこもかしこも地獄に似た灼熱が常なり。 殊更に人の集うところ人肌くるみたるその温もりども密に集うがゆえに風神様も力及ばず微風そよがすに留ま…

20年間のドライブ、私たちの廃墟へ。

週末を利用して、弟と夫と三人で茨城へとドライブをした。 かつて父だった人とその新しい家族、そして私たち姉弟の祖母が暮らす田舎の家を訪ねるためだ。 父と会うのは数年ぶりのことで、4年前に夫となった相手を引き合わせることに私はあまり気乗りがしな…

今夜、音楽にのせてメルシーを。

嵐のように押し寄せる出来事はたましいを運び、また作ること、書くこと、が現在進行形の時間軸とぴたと寄り添う日々が始まっています。 物言うことが怖くなり、雲がゆく速度も、風がつくる模様も、この目には映らない数年間がありました。 そのすぎた歳月の…

純粋電車行為におけるタブー

電車に乗ると不思議なのだ。本を読んだり、音楽を聴いたりしている人間はいくらでもいるのに、風呂に入ったり、熱心にラジオ体操をしながら電車に乗っている人間というのはまず見かけない。また、ガムを噛みしだく・飴玉をなめ溶かす・ペットボトルのお茶を…

食べられるカジノを作ることにした。

どうにかならないのか。椎茸の裏っ側は。も少しタフでいてほしい。椎茸の裏っ側よ。やけに細かい溝みたいなのがルーレットの円盤そっくりに規則正しくひしめいているんだ。椎茸の裏っ側には。そのくせ溝と溝とを溝たらしめている壁が象牙色にやさしくふわふ…